成功には失敗がつきものだが、無駄な失敗はしたくない
失敗と成功の関係は、この図が一番わかりやすいと思うんです。
大学院で社会的に成功している方々の話を聞く機会が多いけど、結局の所とりあえずやってみるの精神が一番大事なんだよな pic.twitter.com/Bl7tvNgAlG
— Sudo Sho (@Sudo_Sho) 2021年8月2日
絶対成功するやり方知ってる?成功するまでやり続ければ良いんだよ!ってやつですね。成功と失敗の関係はコインの裏表やサイコロの目とは異なります。うまく行けば成功するのではなく、失敗を積み重ねたその先に成功が来るのです。
失敗したことがないってプロジェクトや人間がいたら、その人は単に挑戦したことないんだよって指摘もたまにありますね。ちょっと言葉は強いですが、成功には失敗がつきものだということを端的に表すという点では良いかもしれません。
でもこの理屈はしょせん理屈でしかないですよね。人間の体力や気力というものを度外視しています。実際はずっと失敗していたら病むか金欠か飽きるかして挑戦を止めざるを得なくなるはずです。これが錬金術のような長い目で見るものなら「私が死んでも第2第3の錬金術師が現れて真実を明らかにするだろう…グフッ」とかやっててもいいんでしょうけど、我々がやっているのは日進月歩の事業なので無駄な失敗をする余裕はありません。
ですから「成功したいなら失敗は避けられないが、できるだけ少ない失敗から効率的に成功をつかみ取りたい!」という考え方が出てきます。このブログではそのために必要な2つの要素について説明します。
うまく失敗するための2つの要素
プレモーテム:タイムマシンで過去の自分を助けに行く
イメージしてください。今は2025年12月末日、あなたは重い足取りで忘年会と称した飲み会へ向かっています。心なしか暗い同僚の顔。普段よりもやけに高いマネージャの声。わいわいと楽しい現実逃避を続けていたあなたですが、ぽろっとあなたの口から想いがこぼれ出ます。
ああ、あのプロジェクトはもっとここをちゃんとやっておきたかった。
そうしたらプロジェクトは成功して、お客様もきっと喜んでくれたのにーー
頬を伝ってこぼれる涙。共感からチームへと拡がる後悔と懺悔の輪。今日の酒は妙にしょっぱい、店員を呼んでグラスを変えてもらうか。店員さーん。店員、あれ、あおだぬき……?
のび太くんえらい!それこそが成長というものだよ!ようしちょっと手助けしてあげる!ピコピコーン!タイムマシン〜〜〜〜!ほらこれで1月に戻ってやりなおしてきな。みんなによろしくね!
……はい、おかえりなさいませ。あなたは今、12ヶ月先の未来から帰ってきました。はじめての時空の旅はいかがでしたか?なに?猫型ロボットはガストのやつのほうがかわいい?あんまりそれ本人の前で言わないほうが良いですよ。
それで、12ヶ月先のあなたからは今のプロジェクトについてどんな伝言を受け取ってきましたか?ええ、あなたが取り組んでいるプロジェクトです。採用かもしれないし、導入かもしれないし、営業かもしれないし、情報発信かもしれないし、予実管理かもしれないし、顧客支援かもしれないですが、あなたはいま大小いくつかのプロジェクトに取り組んでいますよね。それについて、何を聞いてきましたか?どうやって失敗したとか、どこで顧客の信頼を失ってしまったとか、どこで泥沼になって引き返せなくなってしまったとか、そういう情報です。そして次があればどう改善したいか、も。
これがプレモーテムです。検死のことをポストモーテムと言いますが、死ぬ前に検死を行うことをプレモーテムというのですね。幸いまだあなたのプロジェクトは失敗していません。いや、始まってすらないかもしれませんね。この段階から失敗を想定することで、どこが外せないイベントであり誰がキーマンなのか、どうしたら最大の不幸を回避できるのかなどを想定して役立てることができるのです。
ただ現実にはドラえもんはいないので、想像力や想定力で補う必要があります。ベストなやり方は人によると思いますが、例えば以下のような問いかけを自分にしてみてはいかがでしょうか:
- 定性的な目標を達成できない理由や経緯にはどのようなものが考えられるのか
- 定量的な目標を達成できない兆候はどのようにして事前に発見できるのか
- いつも怒らないあの人が怒るのは、どういう失敗をしたときか
- 私が憧れるあの人ならば、いまなにをするだろうか
- そもそもこのプロジェクトが立ち上がった経緯と、そのときに立てた仮説はなんだったのか
- その仮説が間違っていた場合、どんな事象としてプロジェクトやお客様に跳ね返ってくるのか
仕事で向き合うターゲットは定量的なようで定性的なものが多く、失敗かどうかを判断すること自体が難しいこともあります。そうであっても楽天的に準備して否定的に進む(なんとかなるさと深く考えずに進んでから、きっとやっても無駄だったと失敗をドブに捨てる)姿勢ではなく、批判的に準備して楽観的に進む(仮説を検証し失敗の可能性を潰したうえで、臨機応変に周りを巻き込んでポジティブに働く)姿勢を取り続けましょう。そのために、失敗したらどうしよう、から考えることが大切ということです。
ダメージコントロール:受け身と命綱
失敗したときは必ず自分にダメージが返ってきます。それは無駄にした時間かもしれませんし、かけてしまった金額かもしれませんし、怪我や信用かもしれません。こうしたダメージについて予め備えておき総ダメージをコントロール可能なレベルまで減らすことをダメージコントロールと言います。
皆さんは体育の授業で柔道をやりましたか?柔道の授業はまずうまい転び方、すなわち受け身の取り方から始まります。相手に投げられたときに受け身を取ることで、身体へのダメージを減らして怪我を減らすことができます。これもダメージコントロールです。
あるいはビルの外面清掃をはじめとした高所作業をイメージしてもいいでしょう。こうした作業では、必ず命綱をつけています。つけなくても落ちないかもしれませんが、万が一落ちてしまったときに文字通り命を守ってくれる装備です。
これらはあらかじめ発生するダメージについて考えておき、回避すべきダメージに対してどう対応するべきかを考えて用意した装備です。我々のプロジェクトでもこうした装備があると安心して失敗しにいけますね。ですからプレモーテムを開催してダメージを洗い出し、それをどう回避するか・最適化するかなどを考えて備えましょう。
業務に具体的にどう活かすか
業務によります!が、それだと答えにならないので、みなさんのヒントになることを期待して自分がやっていることをいくつか書いてみます:
- 「決定事項に対してなにをやった、やったらどうなった」という話ばかりしていると感じたら、批判的思考(クリティカル・シンキング)を取り入れて「理想に照らすと現状の何が問題でどうしたら解決できると考えたのでこれをします」という仮説ベースで話すようにする。
- 仮説ができたら検証可能になり、検証可能になればリスク分析をしたうえでの挑戦ができます。建設的な批判はけっこう難度が高いので、何度もやって場数を踏む必要があります。不安なら信頼できる人に伴走してもらいましょう。
- このあたりは 情熱稟議入門にも通じるところがあります。何をするかではなく、なぜそうしたいかを伝えましょう。
- イベント企画時にはまずアンケートや反省会から用意します。
- すなわち「開催後にどのようなフィードバックを参加者から得たら目的の達成を検証できるか」「次回開催時はどのような情報があると嬉しいのか」を意識的に考えるきっかけを先んじて作っておくということです。
- 勝利条件を定めましょう。
- XXをやる・〇〇を終わらせるではなく、XXを解決する・〇〇の業務をなくすといった具体的なアウトカムを書くことで成否を判断しやすく、問題を見つけやすいプロジェクトになります。
- 撤退条件を定めましょう。
- これはどこまでダメージを受けて良いかを考えること、すなわち失敗の奨励とダメージの想定に繋がります。どちらもマネジメントの大切な仕事です。
まとめ
ビジネス的に言うならば仮説思考とリスク・マネジメントの話なんですが、「上手く失敗する」の実践イメージを持つためにプレモーテムとダメージコントロールをしよう、という伝え方にしてみました。
挑戦がビジネスに必要なことはもはや疑いないものの、必ずついてくる失敗とどう向き合うかは常に悩ましいものです。運動前の準備体操のように、失敗からの学びを最大化するための準備をしてから、挑戦していくクセや文化を作っていきましょう。そうすれば限られたリソースの中でも、より小さな失敗のうちに多くを学び、価値ある成功へとつなげることができるはずです。